■(声明)国立大学の独立行政法人化に反対、教育・研究の公共性を守ろう(2000年4月18日)

 文部省が昨年9月、「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を発表し、国立大学を独立行政法人に変えようとしている問題で、滋賀県関係の学者、知識人239人の反対声明が発表されました。紹介します。

国立大学の独立行政法人化に反対し、
教育・研究の公共性を守るため、
滋賀県民のみなさんの討論を呼びかけます
(声明)


 文部省は昨年9月20日、「国立大学の独立行政法人化の検討の方向」を発表し、全国に99ある国立大学の設置形態を「独立行政法人」に変えようとする意向を明らかにし、2000年度の早い時期にも独立行政法人移行を決定し、新たな制度の設計に入る構えを見せています。

 こうした政府・文部省の性急な動きに対し、全国の大学や学部、基礎科学分野および歴史学関係の学会、国立大学理学部長会議、国立大学協会、日本学術会議会長をはじめ、様々な団体・個人が反対の意見を表明しています。

 独立行政法人化の方向は、中央省庁等改革推進本部を中心に推し進められている行政スリム化の切り札として、国立大学の教職員12万5000人を国家公務員の「総定員法」の枠内から切り離し、これによって「公務員の定員を10年間で25%削減する」という政治的公約との整合性を図るための手段として突如浮上してきたものです。こうした制度変更の方向は長年にわたる大学関係者の内部改革の努力の中から出てきたものではありません。また、昨年成立した独立行政法人通則法は、行政の機能を「企画・立案機能」と「実施機能」に分離し、実施機能をもつ政府機関を独立行政法人として分離し、主務大臣が定めた「中期目標」のもとに効率的管理を図ろうとする考え方に立脚しています。

 今日の教育、とりわけ大学教育には様々な問題が山積していることは明らかです。しかし、国立大学の独立行政法人化は政府・与党の公約実現の決め手にはなっても、日本の大学教育改革の決め手にはなりません。確かに膨大な国家行政機構の中には企画・立案機能と実施機能を分離し、効率化を図ることが可能で有効な分野もありうると考えますが、もともと教育・研究等の学術・文化の創造に関わる活動は、通常の行政活動とは異質なものであり、行政改革・国営事業効率化の観点からのみ拙速にこの間題に結論を出すならば、我が国の将来の高等教育・研究に取り返しのつかない禍根を残す恐れがあります。

 国立大学の独立行政法人化は、「特例措置」や「独立の法人格」を与えることで各大学の自主性を強めるものであるかのように強調されています。しかし、文部省提案では、あくまでも「通則法」の趣旨が貫徹することになり、主務大臣の指揮監督権・人事権が明記されるなど、大学の自治や学問の自由を保障する独立した法人格とは程遠い内容とならざるをえないものです。

 さらに、上記の法制度設計上の問題点以外にも以下のような多くの問題点が存在します。

(1) 独立行政法人化は、財政難を口実として、国の高等教育・研究に対する公共性の放棄に繋がる可能性が高いものです.

 そもそも日本の公的な高等教育支出の対GDP比は欧米の半分以下であり、私立大学をも含め、公的資金の投入が長年にわたって抑えられてきたために、教育・研究条件の貧困化が進行する一方で、先進国には例の無いスピードで入学金、授業料の値上げが行われてきたことは周知のとおりです。その結果、大学関連の子弟の教育費は家計を圧迫する主要な要因の一つとなっており、多くの学生は授業料の納入のみでなく、生活費のために恒常的にアルバイトに従事せざるを得ない状況に追い込まれています。さらにはバブル崩壊後の長期景気低迷や中高年リストラなどの雇用不安の中で国民の生活基盤が脅かされ、大学への進学そのものや学業の継続を中途で断念せざるを得ない事態が生まれています。こうした中で、国立大学の独立行政法人化は大学運営に一面的な経済効率性を要求するものであり、結局は授業料の大幅な値上げ、国民への教育費負担のいっそうの押し付け、さらなる教育・研究条件の貧困化に帰着せざるをえないものです。

(2) 独立行政法人化は高等数育・研究機関としての国立大学のあり方に大きなひずみをもたらすものです.

 戦後の国立大学は基礎科学研究の担い手として、また総合的・長期的な視野を持った有為の人材の育成に大きな役割を果たしてきました。しかし、独立行政法人化に伴い、主務官庁と第三者機関による大学評価と改善要求が義務化されます。その第三者機関の構成メンバーは明らかにされていませんし、大学評価・学位授与機構の内容や基準も明らかにされていません。そのうえ、総務省による評価機関も設置されることになります。
 こうした状況を総合的に判断すれば、高等教育の方向・内容が時の権力者や経済界の意向に強く左右され、短期的な成果や産業技術的有用性のみが評価されたり、「大政翼賛」的・国家主義的な方向に変質して行くのではないか、との懸念を払拭することができません。

 イギリスやニュージーランドの事例に示されるように、息の長い研究が必要な基礎科学分野や人文科学分野が衰退させられる可能性が高く、結局、独立行政法人化は日本の科学技術の世界的水準の展開や総合的発展を阻害する懸念が高いものです。

 (3) 独立行政法人化にともない地方国立大学は統廃合され、地域の要請にこたえきれなくなる可能性が高いものです.

 経済のグローバル化が急速に進展してゆく中で首都圏と地方、地方間の経済格差は増大しています。こうした中で、地方国立大学の独立行政法人化はこれまでの「一県一国立大学」という制度的枠組みを大きく超えて、経営優先のために広域的な統廃合を余儀なくされる可能性が高いものです。これまで、県立大学や私立大学とともに地域社会の重要な教育・研究機関として、あるいは地域からの情報発信を支える学術的・文化的インフラストラクチュアーとして貢献してきた地方国立大学が、単に財政効率の観点からのみ統廃合されてもよいのでしょうか。21世紀における地域からの情報発信の重要性や教育機会の地域的公平性の確保などの観点から、総合的かつ慎重な検討が必要ではないでしょうか。

 以上のように、国立大学の独立行政法人化は短期的・財政効率的な観点から短絡的に結論を求めるのではなく、教育・研究のあり方、高等教育における国立大学の役割、地域間公平性の確保、地域社会・経済・文化の発展、学問の世界的・総合的発展の見地などから、国民的な議論と検討が必要であることは明らかです。

 日本政府および文部省は、以上のような問題点を認識し、拙速な態度を改め、ユネスコを含む国際機関における高等教育改革の論議や国民各階層および大学関係者の意向を踏まえた慎重な議論を開始すべきです。また、滋賀県においても、地方国立大学の役割を再検討する中で、21世紀の新たな大学像を模索し、検討すべきであると考えます。

 以上の理由から、私達は、現在進められている国立大学の独立行政法人化には強く反対するとともに、多くの滋賀県民の方々がこの問題に対し関心を持たれ、新たな大学改革のための県民的討論が開始されることを呼びかけるものです。

 2000年4月18日

 国立大学の独立行政法人化反対声明の賛同者一覧(肩書きは2000年3月31日現在)

 秋山義則(滋賀大学)、芦田文夫(立命館大学)、安達信男(画家)、阿知羅隆雄(滋賀大学)、荒井壽夫(滋賀大学〉、有田正三(滋賀大学名誉教授)、池内登志子(高槻市立津之江小学校元教諭・蒲生町在住)、石榑清司(滋賀大学)、石田潤一郎(滋賀県立大学)、板倉安正(滋賀大学)、井手慎司(滋賀県立大学)、出原健一(滋賀大学)、伊藤恵子(滋賀県立大学)、稲葉和夫(立命館大学)、井深信男(滋賀大学)、今村浩(坂本民主診療所所長)、岩井憲一(滋賀大学)、岩崎奈緒子(滋賀大学)、上町達也(滋賀県立大学)、宇佐美英機(滋賀大学)、内田耕作(滋賀大学)、内山清一(日本年金者組合滋賀県本部執行委員)、宇野喜伸(大阪千代田短期大学元講師)、梅田修、〈滋賀大学)、遠藤修一(滋賀大学)、大釜繁(国家公務員労働組合滋賀県共闘会議議長)、大木映子(京都市立小野小学校元教諭・志賀町在住)、大田勝司(滋賀大学)、大竹昭郎(日本科学者会議滋賀支部代表幹事)、大竹美知子(新日本婦人の会滋賀県本部会長)、大西晃(県立八幡高校元教諭)、大西利穂(大西クリニック院長)、大和田敢太(滋賀大学)、小笠原好彦(滋賀大学)、岡田精司(三重大学元教授・大津市在住)、岡本巌(滋賀大学名誉教授)、岡本進(滋賀県立大学)、小川恭子(滋賀第一法律事務所弁護士)、奥田援史(滋賀大学)、奥野博(近江八幡市立八幡西中学元校長)、奥村 昇(県立八幡養護学校元教諭)、奥村冨美(県立盲学校元教諭)、小嶋昭道(滋賀県教育科学研究会顧問)、小田切純子(滋賀大学)、小貫雅男(滋賀県立大学)、面矢慎介(滋賀県立大学)、籠谷泰行(滋賀県立大学)、金丸裕一(立命館大学)、金子孝吉(滋賀大学)、加納正雄(滋賀大学)、鎌田淡紅郎(滋賀県醒井養鱒場元場長)、蒲生儀右衛門(近江八幡市立八幡小学校元教頭)、河相俊之(滋賀大学)、河崎暢夫(滋賀県公立高等学校教職員組合執行委員長)、川端俊英(同朋大学)、神原きく(大津市立雄琴小学校元教諭)、神部純一(滋賀大学)、木島温夫(滋賀大学)、岸本実(滋賀大学)、木全清博(滋賀大学)、北島やゑ子(近江八幡市立八幡小学校元教諭)、北村実(全日本年金者組合滋賀県本部執行委員)、北村裕明(滋賀大学)、喜名信之(滋賀大学)、君和田和一(名古屋大学元講師・草津市在住)、木村康郎(国鉄労働組合京滋地区本部執行委員長)、木村靖(彦根共同法律事務所所長)、桐山ヒサ子(県会議員)、喜里山博之(四天王寺国際仏教大学・大津市在住)、金城明(こびらい生協診療所所長)、工藤基(滋賀医科大学)、窪島 務〈滋賀大学)、久保田肇(滋賀大学)、紅林伸幸(滋賀大学)、黒石晋(滋賀大学)、黒田吉孝(滋賀大学)、小池恒男(滋賀県立大学)、神山進(滋賀大学)、神山保(滋賀大学)、古株助次郎(県立八幡工業高等学校元教諭)、小桜純(滋賀大学)、小島彬(滋賀県立大学〉、児玉典子(滋賀大学)、小林清一(滋賀県立大学)、小林正実(滋賀県立大学)、小山英司(滋賀県立大学)、近雅博(滋賀県立大学)、近藤学(滋賀大学)、近藤公人(滋賀第一法律事務所弁護士)、近藤博之(滋賀大学)、近藤文里(滋賀大学)、近藤文良(滋賀大学)、斎藤敏康(立命館大学)、笹尾純冶(滋賀大学)、澤田和明(滋賀大学)、重永昌二(滋賀県立大学)、柴田幸義(滋賀県商工団体連合会会長)、島田耕(映画監督)、白石恵理子(滋賀大学)、新保友之(滋賀県立短期大学元教授)、杉江徹(滋賀大学)、鈴木弘一(社会福祉法人つくし会理事長)、鈴木正仁(滋賀大学)、鈴木康夫(滋賀大学)、瀬崎博義(瀬崎林業株式会社代表取締役・石部町在住)、瀬領真悟(滋賀大学)、高瀬俊英(崇徳寺住職)、高橋哲郎(龍谷大学)、高谷清(立命館大学)、高山一美(びわ湖自然環境ネットワーク)、竹下秀子(滋賀県立大学)、武永淳(滋賀大学)、田中英明(滋賀大学)、田中穂積(滋賀大学)、谷一明(滋賀銀行従業員組合執行委員長)、谷口義冶(滋賀県立大学)、谷本善弘(滋賀県労働組合総連合議長)、種井昭二(大阪府立春日丘高等学校元教諭・草津市在住)、玉木京子(滋賀大学)、玉置秀貞(県立瀬田高等学校元教諭)、玉木昌美(滋賀第一法律事務所弁護士)、千葉訓司(滋賀大学)、千原孝司(滋賀大学)、辻義則(滋賀県職員組合執行委員長)、筒井正夫(滋賀大学)、寺川庄蔵(びわ湖自然環境ネットワーク代表)、道明美保子(滋賀県立大学)、堂本健二(滋賀大学)、遠山明(滋賀県立短期大学元教授)、土手下美智代(学童保育指導員)、鳥本 昇(滋賀大学)、内藤寿(滋賀県農民組合連合会会長)、中井昭彦(滋賀県農業試験場元企画技術部長)、中島隆(滋賀県立大学)、中野聰志(滋賀大学)、中野善之助(全教滋賀教職員組合執行委員長)、那須光章(滋賀県立大学)、浪江巌(立命館大学)、西馬三郎(滋賀文化短期大学)、西川武(映像・文化関係産業労働組合滋賀分会分会長)、西澤伸明(日本国民救援会彦根・犬上支部事務局次長)、西山勝夫(滋賀医科大学)、二宮健史郎(滋賀大学)、仁連孝順(滋賀県立大学)、野泉晃(野泉会計事務所所長)、野村裕(滋賀第一法律事務所弁護士)、野本明成(滋賀大学)、バコシ、ガーボル(滋賀大学)、橋本輝彦(立命館大学)、畑明郎(大阪府立大学・竜王町在住)、畑中誠治(滋賀大学名誉教授)、八田光雄(滋賀県公立高等学校教職員組合前執行委員長)、馬場義弘(滋賀大学)、早川史子(滋賀県立大学)、早川洋行(滋賀大学)、林孝(滋賀退職教職員の会会長)、林智(大阪大学医療短期大学元教授・志賀町在住)、原博一(滋賀大学)、東昌子(ぜぜ診療所所長代理)、東山明子(滋賀県立大学)、福田菊(龍谷大学)、福本和正(滋賀県立大学)、福本正一(比都佐神社神職)、藤井賢三郎(日本科学者会議滋賀支部)、藤岡惇(立命館大学)、藤崎ヨシヲ(県会議員)、藤田弘之(滋賀大学)、藤本文朗(滋賀大学)、藤森寛(滋賀県公立高等学校教職員組合元執行委員長)、ブライアン・ウィリアムス(画家)、古橋潔(滋賀大学)、北条ゆかり(滋賀大学)、穂積俊輔(滋賀大学)、細井久雄(県立瀬田高等学校元教諭)、堀川貞彦(県立養護学校教諭)、堀越昌子(滋賀大学)、堀本三郎(滋賀大学)、増田佳昭(滋賀県立大学)、松本甚一(公立学校元教論)、真鍋晶子(滋賀大学)、三浦正行(立命館大学)、御崎加代子(滋賀大学)、水原渉(滋賀県立大学)、三ツ石郁夫(滋賀大学)、南澤透(彦根市立川瀬小学校元校長)、宮崎豊治(滋賀大学)、宮田仁(滋賀大学)、村田隆一(滋賀県農業試験場元研究員)、村本孝夫(滋賀大学)、元永佐緒里(彦根共同法律事務所弁護士)、森茂樹(県会議員)、森本博(全日本年金者組合滋賀県本部執行委員長)、森脇克巳(滋賀県立大学)、八木英二(滋賀県立大学)、柳ヶ瀬孝三(立命館大学)、矢部勝彦(滋賀県立大学)、山下一道(滋賀大学)、山添史郎(滋賀大学)、山田稔(滋賀民主教育研究所事務局長)、山田和子(滋賀県母親大会連絡会)、山村美智子(滋賀県母親大会連絡会会長)、山本洋(龍谷大学元教授)、行本善則(龍谷大学)、横山和正(滋賀大学)、吉川栄治(滋賀大学)、吉川千鶴子(滋賀大学)、吉田一郎(滋賀県立大学)、吉田和夫(県立八日市高等学校元教諭)、吉田一彦(湖東教育センター所長)、吉田十一(滋賀県立大学)、吉原稔(滋賀第一法律事務所所長)、吉本博和(国立比良病院を存続拡張させる会代表世話人)、高井隆令(龍谷大学)、若松養亮(滋賀大学)、和田一郎(滋賀銀行従業員組合元執行委員長)、渡邊武(障害者の生活と権利を守る滋賀県連絡協議会会長)、渡辺凡夫(滋賀大学)、渡部雅之(滋賀大学)、その他21名 以上239名