(資料)大阪府市統合本部の原発再稼働に関する8条件(2012年4月10日)



原発再稼働に関する八条件

 昨年3月11日に発生した東日本大震災で引き起こされた福島第一原子力発電所の事故から1年が経過したが、未だに事故収束には遠く及ばず、ここまで深刻かつ広範囲な悪影響を及ぼす事故に至った原因すら究明されていない。しかも、原発事故が起きたときの放射能汚染の広がりの大きさとその社会的・経済的・政治的な影響が極めて深刻、広範かつ長期に及ぶ現実が明らかである。

 ここに提言する「再稼働八条件」は、今後、このような原子力災害を絶対に繰り返さないことを大前提に、この事故を引き起こした「原子力ムラ」と呼ばれる、推進と規制の一体体制から生じた安全軽視の文化と社会構造を一掃し、原発安全思想、安全組織を根本的に立て直すなど、原子力安全の実効的な改善と国民の信頼を回復する手順を踏んでから、再稼働の判断を行うために提示する条件である。

【そもそも論】

 現在、政府が原発再稼働を検討する以前に、根本的に欠落している論点があるので指摘しておく。

1. 「次のフクシマ」級の原発事故が起きた場合には、日本を滅ぼすという危機感が欠けているのではないか。

2. 政府や国会に設置された事故調査委員会の報告も行われておらず、原発事故原因が究明されていない状況では、再稼働の検討はできないのではないか。

3. 原発事故は当事者の東電だけでなく、原子力安全・保安院と原子力安全委員会には「安全規制の失敗」が免れないのではないか。だとすれば、現在の再稼働の手続きは、いわば「A級戦犯」が進めている構図にならないか。

4. 原発が十分な安全性を持つかどうかは、信頼に足る専門家が客観的・中立に判断すべきであり、政治家がそれを判断するというのは「間違った政治主導」ではないか。

【原発再稼働八条件】

 以上の「根本的に欠落している論点」を踏まえた上で、次の「八条件」を満たすことが原発再稼働の前提条件であると考える。

1. 国民が信頼できる規制機関として3 条委員会の規制庁を設立すること

2. 新体制のもとで安全基準を根本から作り直すこと

3. 新体制のもとで新たな安全基準に基づいた完全なストレステストを実施すること

4. 事故発生を前提とした防災計画と危機管理体制を構築すること

5. 原発から 100 キロ程度の広域の住民同意を得て自治体との安全協定を締結すること

6. 使用済み核燃料の最終処理体制を確立し、その実現が見通せること

7. 電力需給について徹底的に検証すること

8. 事故収束と損害賠償など原発事故で生じる倒産リスクを最小化すること

■具体的な説明

1. 国民が信頼できる規制機関として3 条委員会の規制庁を設立すること

・ 現状の問題:

現在は、原発事故「A級戦犯」とも言える原子力安全・保安院や原子力安全委員会がそのまま原発再稼働の安全性を判断する進め方となっており、国民の目から見て不信感をぬぐえない。新しい原子力規制庁の信頼を最初から損なう行為である。

・ 対応策:

(1) 電力会社や原子力事業などの利害関係者から遮断された、国民から信頼される新しい原子力規制体制を作った上で判断するべきである。

(2) 新しい原子力規制体制では、既存の御用学者や無能力体制の問題点をあぶり出し、それを克服できる体制構築を行うべきである。

(3) 不当な政治介入から独立し、市民の生命・健康・財産など安全最優先で果敢に意思決定し行動できる責任体制とするべきである。

(4) 環境省に置くと福島のようにSPEEDI の情報を隠せとかメルトダウンを認めるなというような政治介入を許すことになる。政治からの独立のため、公正取引委員会のような独立性の高い3 条委員会として規制庁を設置するべき。

2. 新体制のもとで安全基準を根本から作り直すこと

・ 現状の問題:

電力会社主導でできた現在の基準には瑕疵ありという斑目原子力安全委員長の証言は重い。電力会社と経産省保安院が作ったでたらめな安全基準を新たな規制庁の下で根本から作り直すべきである。

・ 対応策:

(1) 政府事故調および国会事故調の調査結果をもとに、新しい原子力規制体制によって、事故の根本原因(想定地震動、組織的な不作為等)に基づいた新しい安全基準を再検討すること

(2) その新しい安全基準をすべての原子炉に再適用(バックフィット)すること

3. 新体制のもとで新たな安全基準に基づいた完全なストレステストを実施すること

・ 現状の問題:

福島並みの地震津波対応だけの一次評価では安全とは言えないと斑目委員長がはっきり認めた。新たな基準でテロ対策、シビアアクシデント対策なども含めた全ての危険に対応する2 次評価まで行うことが必須。

・ 対応策:

(1) 新しい規制体制のもとで、想定外を想定するストレステストの枠組みを見直し、それを再適用すべきである。

自然現象
(地震・津波)

人為現象
(ミス、事故、航空機落下)

テロ、攻撃
耐える
閉じ込める
守る

4. 事故発生を前提とした防災計画と危機管理体制を構築すること

・ 現状の問題:

福島原発事故が明らかにしたように、現在の防災指針や自治体の防災計画では重大な原発事故に対応できないことがわかった。この国の原発事故への緊急時対応は、まったくの無為・無策・無能であり、住民をいたずらに被ばくにさらしたもので、それは今もなお、まったく変わっていない。対策の必要な範囲も従来想定をはるかに上回るため、計画と体制を整備することが重要。

・ 対応策:

(1) まったく機能不全であった国の危機管理体制を根本的に見直すこと

(2) 事故時の放射能拡散シミュレーションを全原発地点で公開すること

(3) それに対応して、即応できる防災計画・危機管理体制を構築すること

(4) ヨウ素剤配布を含む現実事故対応の準備と迫真の防災訓練の実施すること

5. 原発から100キロ程度の広域の住民同意を得て自治体との安全協定を締結すること

・ 現状の問題:

福島原発事故が明らかにしたように、いったん原発事故が起きると、放射性物質の拡散とその被害の範囲は原発立地自治体や10km圏内どころか100kmを超える。福井県だけの住民同意では意味がない。大阪を含む広域の自治体を対象とすべき。

・ 対応策:

(1) 最低でも100km 圏もしくは放射能拡散シミュレーションに応じた地方自治体を原子力安全協定の対象とすること

(2) その広域の自治体において住民による熟議を経たうえで政治的に「再稼働」が正式決定されること

6. 使用済み核燃料の最終処理体制を確立し、その実現が見通せること

・ 現状の問題:

六カ所再処理工場と高速増殖原型炉もんじゅ、プルサーマルからなる核燃料サイクルは完全に絵に描いた餅であり、破綻している。しかも、使用済み燃料は発電所サイトで溢れかえっており、2〜10 年で満杯になる。大飯原発の使用済み核燃料プールはあと5~6年しかもたない。その後は見通しがなく、この国の使用済み核燃料の長期的な管理方策は、まったくのデタラメであった。このまま再稼働なら将来世代に対する犯罪行為だ。消費税増税の時は将来世代にツケを回さないと言いながら原発はそれ以上のツケ回しをしている。二枚舌と言われても仕方ない。

・対応策:

(1) 再処理・核燃料サイクルが破綻している現実を認め、それに代わる使用済み核燃料の長期管理方策を提示すること

(2) その長期管理方策が技術的にも政治的にも現実的で、具体的なスケジュール・立地点を含むプログラムが策定されていること

(3) 最終処分のあり方についても、本格的な国民的な議論に着手すること

7. 電力需給について徹底的に検証すること

・ 現状の問題:

現在は、原発再稼働の必要性を何も立証せず、また再稼働以前に取ることができる対策をしないまま、再稼働の圧力が増していることで、建設的な議論が成立していない。あらゆる手立てを講じる努力をしているのか。努力せず情報も出さず、原発再稼働なければ停電と脅すだけでは市民は納得できない。政府も全国レベルでの電力融通に関する情報などを積極的に開示すべき。

・ 対応策:

(1) 電力需給面から原発再稼働が不可欠であることを、完全なる情報公開と万策を尽くした上で証明すること

(2) 具体的には、需要側でのピーク料金やデマンドレスポンスなどを利用したピークマネジメントの可能性、供給側での分散発電市場や揚水発電などを活用したインバランス市場の整備を含めての過不足見込みなどをすべて対策した上での説明であること

8. 事故収束と損害賠償など原発事故で生じる倒産リスクを最小化すること

・ 現状の問題:

すべての電力会社において、事故収束と損害賠償に対する資金的な備えは、皆無に等しい。もともとの原子力損害賠償法では役に立たず、福島原発事故後の原子力損害賠償支援機構でも、今後、現実の事故が起きたときには対応できないことは明らかである。

・ 対応策:

(1) 原子力損害賠償法と原子力損害賠償支援機構を見直し、原子力発電事業者による無限責任を原則として、当面は最低でも数十兆円の供託金を原子力発電事業者で分担する制度・仕組みに見直す