■(資料)大飯原発再稼働停止訴訟について

  原告弁護団井戸謙一弁護士の会見
(2012年3月14日)
                             
 滋賀県民など80人が大飯原発の再稼働差し止めを国に求めた再稼働差し止め行政訴訟を申し立てたさいの、原告弁護団の井戸謙一弁護士の記者会見の資料を紹介します。



1 本日,滋賀県,京都府,大阪府の住民80名が大阪地方裁判所に対し,国を相手取り,大飯原子力発電所3号機,4号機について,定期検査終了証交付の差止めを求める行政訴訟を提起し,併せて,定期検査終了証の仮の差止めを求める申立てをしました。

 請求の趣旨は,次のとおりです。

 「被告の処分庁経済産業大臣枝野幸男は,関西電力株式会社に対し,平成23年3月福島第1原子力発電所事故を踏まえて発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針及びその補完指針,並びに発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年6月15日通商産業省令第62号)が改定されるまでの間,同社の大飯原子力発電所3号機,4号機に関する定期検査終了証を交付してはならない。」

2 原発の定期検査においては,経済産業大臣が,その原発が経済産業省令で定められた技術基準に適合しているかどうかを検査します。経済産業大臣は,適合していない点があれば,事業者に対して技術基準適合命令を出し,適合していると認めれば,定期検査終了証を交付します。これによって,事業者は,営業運転を再開することができます。ところで,原子力安全委員会が定めた安全設計審査指針は原子炉の基本設計であり,技術基準はその詳細設計であると位置付けられており,両者の内容は整合性が図られています。また,技術基準は,電気事業法39条2項によって,人体に危害を及ぼさないよう定めなければならないとされています。

3 ところで,福島第1原発の事故によって,安全設計審査指針の根幹に誤りがあったことが明白になりました。全電源喪失は短時間だけ考慮すればよいとされていたこと,単一故障を想定すればよいとされていたこと等の誤りは明らかであり,そのことは,原子力安全委員会委員長も,経済産業大臣も,内閣総理大臣も認めており,原子力安全委員会は,既に安全設計審査指針の改定作業に入っています。また,安全設計審査指針の補完指針である耐震設計審査指針も,津波対策を事業者に丸投げしていたこと,福島第1原発で基準地震動Ssを超える地震動を記録したこと等から見直しが避けられません。また,福島第1原発事故の原因は,津波だけではなく,揺れによっても重要配管が損傷を受けたと指摘する専門家が多数おられるところ,そうであるとすれば,耐震設計審査指針の全面的な見直しは不可避です。そうすると,安全設計審査指針は,現在,形式的には存在しますが,もはや規範としての効力はなく,失効しているというべきです。そうすると,安全設計審査指針を前提とする技術基準もまた失効しているというべきです。省令である技術基準は,人体に危害を及ぼさないよう定めるという上位規範たる法律に違反していますから,その意味からも,無効です。安全設計審査指針の全面的な改定にともなって技術基準も全面的に改定されなければならないのです。

 現在,有効な技術基準が存在しないということは,経済産業大臣が定期検査の終了を判断する基準が存在しないということです。したがって,経済産業大臣は,定期検査が終了したという判断ができないはずであり,それでも終了したとして定期検査終了証を交付するのであれば,それは違法な処分であると考えます。

4 大飯原発の近くには,FO-A断層,FO-B断層,熊川断層が存在し,これらの連動を想定すべきだという専門家の意見があります。これに対し,関西電力は,FO-A断層,FO-B断層の連動は想定していますが,これに熊川断層を加えた3つの連動は想定していません。また,関西電力の大飯原発における津波の想定は,約2mに過ぎません。関西電力は,緊急安全対策をとったといっていますが,その内容は,電源車を高台に配備したり,扉を水密扉に変えたといった程度のことにすぎません。しかし,地震によって斜面が崩れれば,電源車を移動することはできなくなるし,津波によって漁船等が衝突すれば,水密扉は変形してしまうでしょう。コンピューター上のシミュレーションにすぎないストレステストを経ても,到底その安全性が担保されたとはいえません。

5 福島第1原発事故は,到底収束したとはいえません。大きな余震が福島第1原発を襲えば,再び,深刻な事態が生じかねません。その上に,若狭で過酷事故が発生し,近畿,東海,北陸が広範に被害を受ければ,我が国は立ち直れないほどの打撃を受けることになります。若狭には大きな活断層がいくつもあります。それが動くのは明日かもしれないのです。我が国の国土,そこに住む人々をこよなく愛する私たちは,原発の再稼動に前のめりになっているとしか思えない今の政治の状況を深く危惧します。

 野田総理大臣は,再稼動を決めるのは政治であると言っておられますが,その前に,そもそも法的に再稼動が可能なのか,私たちは,そのことを,速やかに裁判所に判断していただきたいと考えております。

                                             以上